二階の窓から

『論語』より
暴虎馮河(ぼうこひょうが)、 聞くがままに斯(すなは)ち諸(これ)を行はんか

孔子(こうし)門下 編

白文 現代語訳 ノート

白文

暴虎馮河

 子謂顔淵曰、
「用之則行、舎之則藏。唯我與爾有是夫。」
 子路曰、
「子行三軍、則誰與。」
 子曰、
「暴虎馮河、死而無悔者、吾不與也。必也臨事而懼、好謀而成者也。」

巻第4 述而第7-10より

聞斯行諸

 子路問、
「聞斯行諸。」
 子曰、
「有父兄在、如之何其聞斯行之也。」
 冉有問、
「聞斯行諸。」
 子曰、
「聞斯行之。」
 公西華曰、
「由也問、『聞斯行諸。』子曰、『有父兄在。』求也問、『聞斯行諸。』子曰、『聞斯行之。』赤也惑。敢問。」
 子曰、
「求也退、故進之。由也兼人、故退之。」

巻第6 先進第11-21より

書き下し

暴虎馮河(ぼうこひょうが)

 子 顔淵(がんえん)に謂(い)ひて曰はく、
「之を用ゐば則(すなは)ち行ひ、之を舎(す)てば則ち蔵(かく)る。唯(た)だ我と爾(なんじ)と是(これ)有るかな。」
 と。 子路曰はく、
「子 三軍を行(や)らば、則ち誰(たれ)と与(とも)にせん。」
 と。 子曰はく、
「暴虎馮河(ぼうこひょうが)、死して悔ゆること無き者は、我は与(とも)にせざるなり。必ずや事に臨みて懼(おそ)れ、謀(はかりごと)を好みて成す者なり。」
 と。

聞くがままに斯(すなは)ち諸(これ)を行はんか

 子路問ふ、
「聞くがままに斯(すなは)ち諸(これ)を行はんか。」
 と。 子曰はく、
「父兄(ふけい)の在(いま)す有り、之(これ)を如何(いかん)ぞ其(そ)れ聞くがままに斯(すなは)ち之(これ)を行はん。」
 と。 冉有(ぜんゆう)問ふ、
「聞くがままに斯(すなは)ち諸(これ)を行はんか。」
 と。 子曰はく、
「聞くがままに斯(すなは)ち之(これ)を行へ。」
 と。 公西華(こうせいか)曰はく、
「由(ゆう)や問ふ、『聞くがままに斯(すなは)ち諸(これ)を行はんか。』と。子曰はく、『父兄(ふけい)の在(いま)す有り』と。求(きゅう)や問ふ、『聞くがままに斯(すなは)ち諸(これ)を行はんか。』と。子曰はく、『聞くがままに斯(すなは)ち之(これ)を行へ。』と。赤(せき)や惑ふ。敢(あ)えて問ふ。」
 と。 子曰はく、
「求や退く、故に之を進めたり。由や人を兼(か)ぬ、故に之を退けたり。」
 と。


現代語訳

無鉄砲な行動をすること

 孔子先生が顔淵に向かっておっしゃったことには、
「自分を認めて用いてくれる(主君がいる)なら手腕をふるうが、自分を解雇するなら身を潜める。これ(=才能ある者の正しい身の処し方)ができるのは私とおまえだけぐらいだな。」
 と。 (そばにいた)子路が(孔子に褒められた顔淵を妬んで、自分もと思って)言うことには、
「孔子先生は大軍を率いるとしたら、誰と一緒にしますか。(武勇のある私を用いてくれるのですよね。)」
 と。 孔子先生がおっしゃることには、
「虎を素手で打って黄河を徒歩で渡ろうとする無鉄砲な、死んでも後悔しない者(=子路のこと)とは、私は一緒に行動しない。(行動するなら、)事に当たって慎重で、計画を練るのを好んで成し遂げる人物とだ。」
 と。

聞いたらそのまますぐに実行するべきか

 子路が尋ねて言うことには、
「聞いたらそのまますぐに実行するべきでしょうか。」
 と。 孔子先生がおっしゃることには、
「父兄がいるだろう(まずは父兄に相談しなさい)、どうして聞いてすぐにそれを行えるだろうか。(いや、行えない。)」
 と。

 冉有(ぜんゆう)が尋ねて言うことには、
「聞いたらそのまますぐに実行するべきでしょうか。」
 と。 孔子先生がおっしゃることには、
「聞いたらそのまますぐに実行しなさい。」
 と。

 公西華(こうせいか)が言うことには、
「由(子路の名)が『聞いたらそのまますぐに実行するべきでしょうか』とお尋ねしたとき、先生は『父兄がいるだろう』とお答えになりました。求(冉有の名)が同じことをお尋ねしたとき、先生は『そのまま実行しなさい』とおっしゃいました。赤(公西華の名)は迷います。恐れ入りますがお尋ねします。」
 と。 孔子先生がおっしゃることには、
「求は引っ込み思案だから、実行するように進めたのだよ。由は人に気兼ねしないから、おさえたのだ。」
 と。


作品

論語(ろんご)

古代中国で儒教創始期に書かれた「四書」(『大学』、『中庸』、『論語』、『孟子』)のひとつ。
孔子門下によって整理された、孔子(紀元前552-紀元前479)と弟子の言行録。

儒教は「仁(思いやり)」「義(利欲に囚われない)」「礼(習慣・上下関係)」「智(学問)」「信(誠実)」を重んじる教えだ。
『論語』には人間として守るべき至極当たり前なことが、淡々とオムニバス形式で書かれている。

ノート

孔子の門人、子路(しろ)

字(あざな)は仲(ちゅう)、名は由(ゆう)。 魯国出身。武勇を好み、率直すぎる性格が度々話題として登場する。
ずばりと素朴な疑問を投げかけることが多く、その度に孔子は子路を正しい考えに導いていく。『論語』で登場回数ナンバーワンの弟子だ。

中島敦の小説『弟子(Amazonのページに飛びます)』では、孔子が子路に手を焼きながらも、手をかけて育てていく様子が描かれている。孔子と子路の関係がよくわかり、小説としても面白いのでおすすめです。

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金谷 治 (訳注)
文庫: 406ページ
出版社: 岩波書店 改版(1999/11/16)

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